投稿日:2019/05/08
認知症とは
認知症とは、「脳や身体の疾患を原因として、記憶・判断力などに障害が起こり、普通の社会生活が送れなくなった状態」です。
かつては、「痴呆症」と言われていましたが、2004年に厚生労働省の用語検討会によって「認知症」という言葉が提案され、現在は、「認知症」という言葉が定着しています。
「認知症」とは、認知力が低下する状態の総称(症候群)のことで、認知症を引き起こす病気には、「アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症(ピック病)」などがあります。
我が国の65歳以上の高齢者における有病率は8~10%程度といわれています。 現時点では、認知症患者は、200~250万人程度と推定されていますが、今後、さらなる高齢者人口の増加とともに認知症患者数も増加し、2020年には325万人程度まで増加するといわれています。
年相応のもの忘れとの違い
誰でも年齢を重ねると、もの覚えがわるくなったり、忘れやすくなったりすることはあります。こうした年相応の「もの忘れ」は、誰にでも起こりうるものです。しかし、認知症は、こういった「もの忘れ」とは違うものです。
年相応の「もの忘れ」と「認知症」の主な違いや特徴を下に挙げました。
年相応の「物忘れ」 | 認知症 |
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代表的な認知症
代表的な認知症としては、以下の3つの病気があります。
アルツハイマー型認知症
脳の神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮していく病気です。どちらかというと女性に多いです。初期の症状としては、もの忘れ、他に、特徴的な症状として、もの盗られ妄想や徘徊などがあります。病識に乏しいので、認識できないことを、とりつくろう言動が見られることがあります。症状は、徐々に進行していきます。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳血管障害に伴って発症する認知症です。どちらかというと男性に多いです。初期の症状として、もの忘れ、他に、特徴的な症状として、感情のコントロールがうまくいかないことがあります。急に発症し、段階的に進行していくことが多いです。
レビー小体型認知症
脳の神経細胞の中に「レビー小体」と呼ばれる異常なたんぱく質の塊が出現し、その結果、認知症になります。実際にはないものが見える「幻視」が出ることがあります。また、手足が震える、小刻みに歩くなどのパーキンソン症状がみられることもあります。調子の良いときと、悪いときを繰り返しながら進行しますが、ときに急速に進行することもあります。
以上の3つの病気で、認知症の9割以上を占めています。
認知症の診断基準
認知症の診断基準は、以下の通りです。
- 記憶の障害があること
- 失語・失行・失認・実行機能の障害のいずれか1つ以上があること
- せん妄でないこと
- 他の精神障害からは説明できないこと
「失語」とは、言葉が分からなくなる状態です。
「失行」とは、行動ができなくなる状態です。例えば、麻痺等がないのに、着替えができない「着衣失行」などがあります。
「失認」とは、認識ができなくなる状態です。例えば、視力に障害がないのに空間の認識ができない「視空間失認」などがあります。
実行機能の障害とは、手順が分からなくなる状態です。
「せん妄」とは、短期間に出現する異常な症状(認知障害・異常な精神状態)のことをいいます。高齢者の約10〜20%は、入院中にせん妄になるといわれています。突然始まり、数時間~数日間続きます(通常1カ月以内)。これは、一時的な状態なので、認知症ではありません。
認知症の症状
認知症の症状には、脳の障害そのものから引き起こされる「中核症状」と、環境や身体状況、関わり方などと関わりの深い「BPSD(行動・心理症状)」があります。BPSDは、以前は、「周辺症状」と言われていましたが、最近は「BPSD(行動・心理症状)」という名称が一般的になっています。
中核症状
「中核症状」は、脳の障害そのものから引き起こされる症状です。次のうち、いずれかの症状が出ます。
記憶障害
記憶が障害されていきます。特に、最近のことを忘れる、新しいことを覚えられないなど、長期記憶よりも短期記憶が先に障害される傾向にあります。また、「体験全体を忘れる」というのも特徴です。
見当識(けんとうしき)障害
時間や場所や人が分かる意識のことを「見当識」といいます。これが障害されていくので、日付、時間、場所、人物などが分からなくなります。
判断力の低下
判断力が低下し、計画を立てる、順序立てる、判断することなどが難しくなっていきます。
失語(しつご)
言葉が分からなくなります。言葉が理解できなくなったり、言葉が話せなくなったりします。
失行(しっこう)
麻痺などはないはずなのに、行動、動作ができなくなります。例えば、「着衣失行」では、着替えがうまくできなくなります
失認(しつにん)
目は見えているはずなのに、認識ができなくなります。例えば、「視空間失認」では、空間の認識ができなくなります。
実行機能の障害
物事を実行するときの手順などが分からなくなります。
BPSD(行動・心理症状、周辺症状)
行動や心理の症状です。環境や身体状況、周囲の人との関わりの中で起きてくる症状です。
妄想
事実でないことを本気で信じ込んでしまいます。物盗られ妄想、被害妄想、嫉妬妄想などがあります。
幻覚
現実にはないものが見えたり、聞こえたりします。幻聴よりも幻視が多いのが特徴です。「今、子ども達が何人か入ってきたのよ」などと言ったりします。
不安、依存
イライラして落ち着かなくなったり、一人になると落ち着かなかったりします。
徘徊
家の周りの道など知っているはずの場所で迷い、歩き続け、行方不明になることもあります。
攻撃的行動、暴言、暴力
行動を注意・制止したり、本人に十分に説明をしなかったりすると攻撃的な行動が起きやすいです。型にはめようとすることで不満が爆発します。幻覚や妄想から生じる場合もあります。
睡眠障害
夜に眠れなかったり、日中にうたた寝をすることが増加します。
介護への抵抗
特に、入浴や着替えなどを嫌がることが多いようです。衣服着脱の難しさ、浴室の床で転倒の危険性、運動機能・条件反射低下による不安、水へ恐怖感などから生じると考えられます。
異食・過食
異食は、食べられないものを口に入れること。過食は、食べ過ぎてしまうこと。例えば、食事をしても「お腹がすいた」と言って、さらに食べてしまいます。
抑うつ状態
気持ちがふさぎ込み、意欲の低下(何もしたくなくなる)、思考の障害(思考が遅くなる)などが見られることがあります。
症状の出現の仕方の特徴(見当識)
認知症の方の見当識障害は、一般的に、「時間」→「場所」→「人」の順で進んでいきます。ですので、認知症の初期症状は、「日付・曜日・時間などが分からなくなる」ことです。例えば、約束の時間通りに訪問しているのに、「遅かったですね!」とか、「昨日、来るんじゃなかったんですか?」などと言われて怒られた場合、認知症の初期症状が出ている可能性が高いです。さらに認知症が進行していくと、場所が分からなくなってきます。大阪に住んでいるのに「ここらへんは、東京でも田舎の方ですからね・・・」などと言う人は、場所が分からなくなっている可能性があります。そして、認知症がかなり進んでくるとに、人が分からなくなってきます。介護施設で、身内の方が面会に来ても分からない、というのは、認知症がかなり進行している状態と思われます。
記憶障害の特徴(短期記憶と長期記憶)
記憶は、短期記憶と長期記憶に分かれます。短期記憶とは、最近の出来事の記憶です。長期記憶というのは、昔の出来事の記憶になります。認知症では、一般的に、「短期記憶」→「長期記憶」の順に障害されていくので、認知症の初期症状は、「最近のことが分からなくなる」ことです。例えば、高齢者の方と同居しているご家族が、「今朝、言ったことも覚えていない。認知症かもしれない。」と言い、近くに住む娘が来てみると、特に変わった様子はなく、会話もしっかりできるし、いろんなことも覚えている、という場合。これは、同居しているご家族は、最近のことを忘れる様子を見ていて、たまに来る娘は、昔の話をしているのです。「短期記憶が障害されて、長期記憶が保存されている」という、認知症の初期から中期によくみられる状態です。
認知症の程度を簡単に知る方法
こういった認知症の記憶障害の特徴を知っていると、2つの質問で、認知症の程度を推測することができます。それは、「生年月日」と「年齢」です。「何年生まれですか?お誕生日を教えてもらっていいですか?」「今、おいくつですか?」ときいてみます。生年月日は長期記憶、年齢は短期記憶になります。生年月日も年齢も正確に言えるなら、認知症はない、もしくは、認知症があっても軽度だと思われます。生年月日は正確に言えるけど、年齢が分からない、もしくは、間違っている(1~2歳は誤差と見るので、3歳以上違っている)場合は、認知症の程度は中等度と思われます。生年月日も分からないようだと、認知症の程度は重度と推測されます。
手続き記憶と杖歩行の関係
身体を動かして、身体で覚えるような記憶は、「手続き記憶」と言われ、認知症になっても比較的残りやすいと言われています。例えば、認知症になる前から杖を使って歩いていて、杖を使った歩行パターンが身体に染みついている場合は、その後、認知症を発症したり、認知症が進行したとしても、杖を使ってスムーズに歩ける可能性が高いでしょう。一方、今まで杖を全く使ったことのない人が、認知症がかなり進行してから初めて杖を使って歩こうとしても難しい場合が多いです。ある程度年齢を重ねてきたら、積極的に杖を使って外を歩いてみましょう。外に出かけることや、しっかりと歩くことは、脳の活性化になりますし、万が一、将来、認知症になったとしても、手続き記憶として残っている杖歩行のパターンを活用することができるでしょう
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